
格安自動車保険
忘れてはならないのは'高度成長期に対する心理的調整を国民がなお必要としていた七〇年代初期に、時をおかずして起こった石油ショックがその心理状況を一変させたことである。
この死活的エネルギーの価格上昇と供給面への不安に国民の関心が集中し、続く深刻な不況のなかで、「くたばれGNP」的発想は影をひそめた。
八〇年代末にかけてのバブル経済の場合はどうか。
当初は、好況下に物価は安定し、国民は、アメリカに追いつき、これを追い越した日本経済の未来に明るい展望を抱いていたはずである。
また、土地・株式の含み益は何らかの形で、その経済社会の一員である国民を潤してもいたであろう。
だが、やがて矛盾が顕在化すると、安定した物価の背後から強力なストック・インフレが姿を現す。
ストック経済の時代などともてはやされたものの、現実にはストック格差の時代であって、またたくまに「一億総中流階級」は単なる幻想になってしまった。
潜在的な不満は爆発の時期を待っていたのである。
ここまで低金利政策を継続してしまった日銀に、基本的な責任があったのはもちろん、その政策のもとで規律を欠いた土地関連融資を肥大化させ、暴騰を演出した民間金融機関の責任も追及されなくてはならない。
だが、現実の問題としては、暴騰した地価を前提とする巨額の不動産関連融資が行われてしまっている。
地価を一挙に引き下げることは、その結果へ合理的な価格水準が達成されるとしても、金融システムには致命的打撃を与えるのである。
これらを合わせ考えると、土地バブルの調整は、とりあえず燃えさかる煩を消し止め、その後は自然鎮火を待つというのが経済的合理性に基づいた現実的判断であった。
また、調整という以上は、ピークからは二~三割下の水準というのが限界であった。
銀行が自己規律に基づいて、融資額を地価の七~八割にとどめていれば、地価がピークから二~三割下落したところで基本的に不良債権は発生しないはずである。
これでも地価はなお割高で、国民の不満は残るとしても、経済の成長でいずれはギャップが解消されるのを期待する。
これが現実的で破綻の少ないシナリオであったと考えられる。
なぜそうした合理的な調整コースがたどれなかったのか。
日銀は、アメリカにブッシュ政権が誕生した八九年春、これを見とどけるかのように、ようやく超低金利政策を修正した。
株式は同年末にピークをつけ、土地も遅れて九〇年をピークに急速に下落に転ずる。
こうしたなかで、「インフレ・ファイター」と、主要メディアの歓呼の声に迎えられて登場した三重野康新総裁のもと、八九年十月に続き、九〇年にも二月、八月と、六%まで公定歩合が引き上げられた。
一方、九〇年四月には、不動産融資に対する前年同期比の貸出しの伸びを、貸出総額のそれ以下にするという金融機関に対する総量規制が大蔵省によって実施された。
しかし、土地の高騰への国民の不満はなお根強く、これがピークをはるか過ぎたあとの「地価税」の導入にもつながっていった。
「バブル潰し」という国民的コンセンサスは、明らかに極端に走っていた。
それも理由のないことではなかった。
株価が低落しても保有層の裾野が広がっていなかったため、大多数の国民にとっては無関係な現象であった。
地価が低落したといっても、「いまだ高すぎる」(これはそのとおりである)と、構造協議におけるアメリカ側の主張に根拠を与える見解がメディアで大きく取り上げられていたが、この場合、論者の多くは金融問題ではなく、あくまでも土地問題の「専門家」であった。
このような世論を背景にして、今度はバブルの崩壊が、土地・株式連動の形で、九〇年代を通じ、いつ果てるともなく進行することになる。
その価格水準は、双方ともピーク時の半分以下にまで下落して、単なる調整の域を超え、収拾不能の状態に陥ることになる。
そこには日本の経済社会特有の同質性、「乏しきを憂えず、しからざるを憂う」疑似社会主義的な国民感情が、構造協議の風圧を受けて、いっそう強まったという事情があったものと思われる。
国際政策協調に端を発した「作られた」バブルは、内圧・外圧の相乗作用のなかで息の根を止められ、急速に崩壊していったのである。
バブル経済とその崩壊は、八〇年以降の日米経済に見られた不自然な相互依存関係の、いわば総集編であった。
ドイツがこうした事態を免れ得たのに対し、協調に忠実な日本の受けた打撃は大きかった。
ブッシュ政権では、レーガン政権時代の政策協調路線の演出者・ベーカー財務長官は国務長官のポストに移り、資本市場の直接の担当者ではすでになかった。
アメリカ側が、日米構造協議において、バブル経済そのものの破砕をもくろんでいたのであれば、それ自体は成功であったといえる。
しかし、アメリカへのジャパン・マネーの流入が、バブルの含み益をバッファにして継続されていた事実を考えると、バブル潰しは資金流入のパイプを細くする結果を招来するだろう。
アメリカ側はそこまで考慮に入れたうえで、なお日本側の資金力の源泉を叩こうとしたのか。
細くなるはずのジャパン・マネーの流れを補完する手当はすでについていたのか。
それとも、公共投資四三〇兆円の対米公約をもって成果とするつもりが、副産物としてバブルの崩壊まで呼び込んでしまったのか。
そのあたりの断定は、なかなか難しい。
いずれにせよ、八八年を通じて、共和党政権の継続を願い、アメリカの債券市場の安定をも自らの使命と考えたわが大蔵当局にとって、冷戦の終蔦と同時に進行した新共和党政権の対日経済政策の変貌は、おそらく予期せざるできごとであったにちがいない。
まがりなりにも安定していた政策協調路線はここに終わりを告げ、アメリカの対日経済戦略は、これ以降、貿易収支の均衡と資金流入のはぎまで綱渡りを続けることになる。
株価急落の引き金なお、九〇年の株価崩落については、次のような視点を付け加えておこう。
八九年になって、いまだ東京証券市場は「債権国相場」に沸いていたが、筆者は先行きにかなり疑問を感じていた。
先にも述べたように、日銀も、八九年五月、金融政策を転換していたが、これを無視する形で株式市場は上昇を続けていた。
これが筆者が首を傾げた基本的な理由である。
さらに、この年の後半には、日経平均は上昇しているが、その際、値上がり銘柄よりも値下がり銘柄数のほうが多いという状況が目立つようになった。
つまり市場の基調は弱いのに、日経平均をつり上げるために、何らかの操作が行われている可能性もないではなかった。
九〇年に入っての株価急落には、米系大手証券の活発な裁定取引が大きな役割を果たしたといわれるが、右のような八九年の相場を前提に考えると、あながち荒唐無稽な情報と一蹴するわけにもいくまい。
裁定取引は、それを株式の先物・現物の間で行うと、少ない証拠金で、時に株式市場全体を動かすことができる。
アメリカのブラック・マンデーが、じつはこの裁定取引を引き金にして引き起こされたことが後に判明したところから、以後、アメリカの大手証券は自粛していた金融技術である。
一方、ブラック・マンデーの後、規制緩和を求めるアメリカの要求によって、日本の株式市場は、値動きの速い「日経225先物」の導入を迫られ、これを受け入れていた。
日本側としては、値動きの遅い先物を対案として打診したが容れられなかったという。
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